2009年12月アーカイブ

愛車との別れ

 愛車の調子はずいぶん前から悪かった。セルスイッチを押しても、エンジンがかからない時があった。何度か押すとエンジンはかかるため、だましだまし乗っていた。
 そして、エンジンがかからないことが頻繁に起こるようになり、僕はいつものバイク屋の親父さんに見てもらうことにした。
「セルボタンの接点だけだったらいいが、セルモーターかもしれんな。そうなったら、バラさなきゃいかんぞ」
 セルボタンに接点復活剤を吹きつけながら、バイク屋の親父さんが言った。
「これで変わらないようなら、セルモーターだな」
「そうなったら、入院ですか?」
「当たり前だ。オイルも交換だ」
 僕のバイクは新車で購入して十三年以上乗り続けていることを、この親父さんは知っているはずだ。それにもかかわらず、新車を勧めることを一切せず、なんとか直そうとしてくれている。十三年前、バイクのバの字も知らなかった若い頃、ただ安いという理由だけで見つけたバイクショップでこの愛車を買った。このバイク屋の親父さんのところで買ったバイクではないのに、親父さんは親身になって愛車の面倒を見てくれている。四年前にはエンジンのオーバーホールをしてもらい、三年前にはフロントフォークのオーバーホールもしてもらっていた。
「とりあえず、様子を見てみます」
 僕は親父さんの店を後にした。
 
 翌日。仕事から帰る際、やはりエンジンがかからない。何回、何十回セルスイッチを押しただろうか。ようやくエンジンがかかり、ほっとした僕は帰路についた。
 買い替えか、修理か。どちらか決断しなければならないときが来たようだ。今のバイクには愛着がある。なにしろ、生まれて初めて買ったバイクなのだ。それを三十五歳になる現在まで乗り続けてきたのだ。エンジン自体は調子がいいし、いろいろな消耗品も交換したばかりだった。
 しかし…。乗り続けていくとしたら、修理が増えていくのではないか。セルモーターを直したところで、他にも調子の悪い部分はあるし、交換したい箇所もたくさんある。あちこちガタがきているというのも確かだ。
 それよりなにより、新しいバイクに大きな魅力を感じていた。
 ダメもとで妻に買い替えの相談をしたら、意外にも許可が下りた。その夜、僕は買い替えを考えている旨をバイク屋の親父さんへメールした。うれしくて、なんだか子供みたいに目が冴えてしまい、布団に入ってもなかなか寝付けなかった。
 
 翌日。会社から帰る際、やはり愛車のエンジンがかからない。セルスイッチを何度も何度も押してみる。エンジンはかからない。この日はいくら押してもかからなかった。
 バイク屋の親父さんへ電話を入れると、文句を言いながらも、十キロ以上離れたここまで、トラックで来てくれるという。ありがたいと感じたと同時に、僕はすでに決心をしていた。
 
 トラックに不動となった愛車を積み、助手席に乗せてもらって、親父さんのバイク屋へ向かう。
「これからは、二気筒のバイクが増えていくかもしれんなあ」
 トラックの中で、インジェクションの話題をしていたときに親父さんの口から出たつぶやきだ。二気筒のネイキッドか。面白そうだと僕は思った。
 バイク屋に到着すると、僕は今のバイクと同じバイクを新車で購入する契約を、その日にした。
 
 妻に買い替えの相談をしたこと。バイク屋の親父さんへのメール。うれしくて眠られなかったこと。それらを愛車は見ていたのかもしれない。あの日、あのタイミングでまったく動かなくなったのは、僕への最後の気遣いだったのかもしれない。もうがんばらなくてもいい。そうして、あいつは張っていた気を緩めて、動かなくなり、結果的に僕に買い換えを決心させてくれた。
 
「生まれて初めて買ったバイクに今も乗っているんですよ」
 おまえは僕の自慢だった。
 十三年と四ヶ月。すばらしい日々とたくさんの思い出をありがとう。
 
 
カワサキ エストレヤカスタム 96年式
77000km
2009年10月27日 不動となり、廃車
 

愛車との別れ

 愛車の調子はずいぶん前から悪かった。セルスイッチを押しても、エンジンがかからない時があった。何度か押すとエンジンはかかるため、だましだまし乗っていた。
 そして、エンジンがかからないことが頻繁に起こるようになり、僕はいつものバイク屋の親父さんに見てもらうことにした。
「セルボタンの接点だけだったらいいが、セルモーターかもしれんな。そうなったら、バラさなきゃいかんぞ」
 セルボタンに接点復活剤を吹きつけながら、バイク屋の親父さんが言った。
「これで変わらないようなら、セルモーターだな」
「そうなったら、入院ですか?」
「当たり前だ。オイルも交換だ」
 僕のバイクは新車で購入して十三年以上乗り続けていることを、この親父さんは知っているはずだ。それにもかかわらず、新車を勧めることを一切せず、なんとか直そうとしてくれている。十三年前、バイクのバの字も知らなかった若い頃、ただ安いという理由だけで見つけたバイクショップでこの愛車を買った。このバイク屋の親父さんのところで買ったバイクではないのに、親父さんは親身になって愛車の面倒を見てくれている。四年前にはエンジンのオーバーホールをしてもらい、三年前にはフロントフォークのオーバーホールもしてもらっていた。
「とりあえず、様子を見てみます」
 僕は親父さんの店を後にした。
 
 翌日。仕事から帰る際、やはりエンジンがかからない。何回、何十回セルスイッチを押しただろうか。ようやくエンジンがかかり、ほっとした僕は帰路についた。
 買い替えか、修理か。どちらか決断しなければならないときが来たようだ。今のバイクには愛着がある。なにしろ、生まれて初めて買ったバイクなのだ。それを三十五歳になる現在まで乗り続けてきたのだ。エンジン自体は調子がいいし、いろいろな消耗品も交換したばかりだった。
 しかし…。乗り続けていくとしたら、修理が増えていくのではないか。セルモーターを直したところで、他にも調子の悪い部分はあるし、交換したい箇所もたくさんある。あちこちガタがきているというのも確かだ。
 それよりなにより、新しいバイクに大きな魅力を感じていた。
 ダメもとで妻に買い替えの相談をしたら、意外にも許可が下りた。その夜、僕は買い替えを考えている旨をバイク屋の親父さんへメールした。うれしくて、なんだか子供みたいに目が冴えてしまい、布団に入ってもなかなか寝付けなかった。
 
 翌日。会社から帰る際、やはり愛車のエンジンがかからない。セルスイッチを何度も何度も押してみる。エンジンはかからない。この日はいくら押してもかからなかった。
 バイク屋の親父さんへ電話を入れると、文句を言いながらも、十キロ以上離れたここまで、トラックで来てくれるという。ありがたいと感じたと同時に、僕はすでに決心をしていた。
 
 トラックに不動となった愛車を積み、助手席に乗せてもらって、親父さんのバイク屋へ向かう。
「これからは、二気筒のバイクが増えていくかもしれんなあ」
 トラックの中で、インジェクションの話題をしていたときに親父さんの口から出たつぶやきだ。二気筒のネイキッドか。面白そうだと僕は思った。
 バイク屋に到着すると、僕は今のバイクと同じバイクを新車で購入する契約を、その日にした。
 
 妻に買い替えの相談をしたこと。バイク屋の親父さんへのメール。うれしくて眠られなかったこと。それらを愛車は見ていたのかもしれない。あの日、あのタイミングでまったく動かなくなったのは、僕への最後の気遣いだったのかもしれない。もうがんばらなくてもいい。そうして、あいつは張っていた気を緩めて、動かなくなり、結果的に僕に買い換えを決心させてくれた。
 
「生まれて初めて買ったバイクに今も乗っているんですよ」
 おまえは僕の自慢だった。
 十三年と四ヶ月。すばらしい日々とたくさんの思い出をありがとう。
 
 
カワサキ エストレヤカスタム 96年式
77000km
2009年10月27日 不動となり、廃車
 

初めまして

みなさん、初めまして。静岡県藤枝市在住のバイク乗り、武田宗徳です。

現在35歳、7歳と3歳の男の子の父親です。

バイク好きが講じて10年ほど前からバイク小説を書き始めました。

バイク雑誌に投稿して、何度か掲載させていただきました。

8年前からはバイク小説のフリーペーパーを作り始めました。

地元藤枝市を中心にバイクショップや喫茶店やBARなどへ配布をしており、

現在58号を発行しました。

Gaoさんとは、バイクショップに置かれていた僕のフリーペーパーを

読んでくれたことがきっかけで知り合うことができました。

初めてON THE ROAD MAGAZINEが発行される頃でしたので、長い付き合いになります。

2008年には念願の書籍を出版しました。

みなさんのおかげで、初版の1000部は1年を待たずして完売し、

現在第2版が好評発売中です。

バイクと関わることで生まれる切なくも熱いドラマを、

これから、定期的に掲載していきます。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

 

http://www.geocities.jp/mjy_t/

初めまして

画像

みなさん、初めまして。静岡県藤枝市在住のバイク乗り、武田宗徳です。

現在35歳、7歳と3歳の男の子の父親です。

バイク好きが講じて10年ほど前からバイク小説を書き始めました。

バイク雑誌に投稿して、何度か掲載させていただきました。

8年前からはバイク小説のフリーペーパーを作り始めました。

地元藤枝市を中心にバイクショップや喫茶店やBARなどへ配布をしており、

現在58号を発行しました。

Gaoさんとは、バイクショップに置かれていた僕のフリーペーパーを

読んでくれたことがきっかけで知り合うことができました。

初めてON THE ROAD MAGAZINEが発行される頃でしたので、長い付き合いになります。

2008年には念願の書籍を出版しました。

みなさんのおかげで、初版の1000部は1年を待たずして完売し、

現在第2版が好評発売中です。

バイクと関わることで生まれる切なくも熱いドラマを、

これから、定期的に掲載していきます。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

 

http://www.geocities.jp/mjy_t/

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