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MOTORCYCLERider's Story『よく会いますね』

2011.07.09

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静岡在住の小説家、武田宗徳がお届けする"Rider's Story"

文と写真:武田 宗徳

 まただ。あのセロー。
 僕は、愛車SRに跨って地元の湖までの日帰りソロツーリングを楽しんでいた。僕は途中の土産物屋にバイクを止めて休憩していた。八月の暑い日だった。喉の渇きを潤すため、外でコーラを飲んでいた。その時だった。ヤマハのセローが店の前を通り過ぎて行った。まったく同じバイクだ。今日、これで三度目だった。
 一度目は出発してから三十分も経っていない頃、信号待ちで隣り合った。二度目はそのセローがガソリンスタンドにいるところを見かけた。そして、今が三度目。出発地点も近い場所のようだが、目的地も一緒なのではないだろうか。出発して、もう二時間になろうとしている。
 僕は再びバイクに跨り、走り始めた。標高が徐々に高くなってきたからか、風が涼しく感じられるようになった。木々のトンネルを抜けた。木陰がつくるひんやりとした空気が気持ちいい。
 しばらく行くと道の駅が見えてくるはずだ。僕はそこで休憩するつもりはなかったが、あのセローが停まっているかもしれない、という期待をしていた。
 道の駅が左手に見えてきた。駐輪場にはあのセローが停まっていた。乗り手は、女の子だった。確かに体型や服装からそうではないかと思っていたのだ。おいしそうにソフトクリームをほおばっていた。歳は僕と同じくらいだろうか、二〇代前半位に見える。その女の子は道路を走っている僕に気づいたようだ。バイク乗りはバイクの排気音に敏感なのだ。なんと、女の子はこちらに向かって手を振り始めた。僕は少し驚いたが、少し考えた。僕と同じように、向こうもこちらを意識していたのかもしれない。僕も手を振り返すことにした。向こうの彼女は更に勢い良く手を振り返していた。 
 まったくの知らない他人同士なのに、このようにコミュニケーションをとれたことに、僕は妙に興奮していた。
 しばらく行った先にある大きな滝を、僕は眺めていた。舗装されていない駐車場から砂利道を歩いて降りていった先に、展望台がある。滝、湖、どちらも僕の好きな風景だが、両方とも「水」。そういえば、自分は水のある風景が好きであることに気づいた。川も海も池も好きだ。水田も用水路さえも好きだ。
 滝は川を作り下流へと流れていく。道路はこの川沿いに北上していた。下流のほう、ずっと向こうの道路にバイクの影が見えた。僕は、彼女かもしれないと思い、急いで駐車場へと駆け上がった。
駐車場へ出たと同時に、向こうからあのセローが走ってきた。僕は両手で手を振った。向こうも左手を大きく振りながら、勢いよく走り去っていった。
 何なのだろう、この関係は。まだ一言も会話をしたこともない二人が大きく手を振り合っている。面白い関係だと思った。これだから、バイクはやめられないのだ。 
 僕は遅れてバイクを走らせた。次の目的地は湖を一望できる富士見峠という展望台だ。
 木々のトンネルを抜け、崖沿いの道路を走り、橋をいくつか渡った。上り坂を越えると右側にパーキングが見えてきた。富士見峠に到着したのだ。
 バイクを駐車場に停めると、僕は展望台に向かって歩き出した。展望台に登ると先客のバイク乗りが、まるで僕を待っていたかのように振り返った。
「よく会いますね」
 僕はセローの彼女に話しかけた。小柄でかわいらしい印象を受けた。
「本当。良く会うから目的地が同じなんだなあって思いました」
 彼女は口に手をやり、くすっ、と笑った。
「あの湖へ行くんですよね」
 僕は展望台から見える湖を指差して言った。
「そう。私の定番のツーリングコースなんです」
「僕もです」
 僕は展望台の柵に手をかけて言った。
「ソフトクリームおいしそうに食べてましたね」
「そっちこそコーラ一気飲みしてたよ」
 お互い目を合わせて一瞬間があった後、声を上げて笑いあった。
「湖まで一緒に行きませんか」
 驚いたことに、彼女からの提案だった。
「もちろん、いいですよ」
 駐車場に戻ってヘルメットをかぶり、エンジンをかける。二台の単気筒の排気音が森にこだまする。彼女が先に駐車場から道路へ走り出した。僕もあとに続く。
 今日まで赤の他人同士だった二人が、今こうして一緒にツーリングをしている。ソロツーリングで出発したのにもかかわらず、今は彼女と二台で湖に向かっている。バイクツーリングには面白いことがつきもの。必ず何かが起きるのだ。
 高まる胸の鼓動を抑えながら、僕は彼女を追いかけて緩やかなカーブを走り抜けた。

おわり

写真

武田宗徳(たけだむねのり)プロフィール
 
1974年7月14日生まれの二児の父。静岡県立藤枝東高等学校卒業後、立正大学経済学部に進学。大学4年間は漫画家になるために費やされたが、大学4年の秋、挫折。就職浪人のまま卒業し、地元静岡へ戻る。
 2000年からオートバイ小説を書き始め、オートバイ雑誌への掲載を経て、2002年春、地元静岡県藤枝市でフリーペーパー「Rider's Story」を発行し、配布を始める。1~2ヶ月に一度のペースで発行し続け、現在65号を数える。
 また、全国展開の乗り物系フリーマガジン「ON THE ROAD MAGAZINE」にてオートバイ小説を好評連載中。その他、静岡県志太地区限定の情報誌「志太コレクション」にもオートバイ小説を連載。
 愛車はカワサキエストレア2009年モデル。1台目は大学時代から乗っていた同じエストレアだったが、購入して13年と少したった2009年10月故障により廃車。同じ車両を新車で購入した。現在、通勤にツーリングにあらゆるシーンで活躍中。
 バイク以外の趣味はコーヒーをいれることと、フリーマーケット。

 
2008年、静岡学術出版より『バイク小説短編集"Rider's Story"~僕は、オートバイを選んだ~』を出版。

2011年、待望の第2弾。
 静岡学術出版より最新書『バイク小説短編集Rider's Story2~つかの間の自由を求めて~』を出版。


ホームページ:http://www.geocities.jp/mjy_t

ブログ『Rider's Life』:http://www.orm-web.co.jp/blog/riders_life

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