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MOTORCYCLERider's Story on ORM-web 第13回

2010.05.12

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Rider's Story 長篇連載の13回目


前回までのあらすじ...


土屋健次郎は海沿いのカフェ「Sea & Sky」に通うようになっていた。何か影のある店主の女性、林涼子に次第に惹かれていった。健次郎は彼女をツーリングに連れて行き、そこで彼女は夫のことを初めて話してくれた。

『自由へ至る 』第13話 山菜そば

文と写真:武田宗徳

「ご主人はいつも、どこで創作活動をしているんですか」

「自宅よ。私のカフェから降りたところにある集落の中の一軒」

「……さっき別れようかなって言ってましたけど」

「母がね、去年他界したの」

「そうですか」

「今日のこと、もし知られたらって考えると怖い」

「大丈夫ですよ」

「やっぱり、別れられない」

「怖い?」

「あなたは知らないから。主人のこと」
「そうですね」

「それに、もし別れたとしても、やっぱり自由にはなれないと思う」

「なんでですか。自由になれるじゃないですか」

「完璧な自由はないのよ」
「……」

「死ぬ以外に」
 
健次郎は、緊張した。胸がきゅうっと締め付けられた。健次郎は、やっとの思いで口に出した。

「それでも、生きていくんですよね」
 
しばらく、健次郎の目を見ていた涼子は、視線をそらし後ろを向いて今来た道を戻っていった。健次郎も後に続いていった。

 

この湖に来る途中に、道の駅があったことを健次郎は思い出した。去年一度寄ったことがある。そこにある、なんでもない食堂の山菜そばが結構おいしかったのだ。昼飯をそこで食べようと涼子に告げ、健次郎は単気筒の歯切れの良い排気音を山に響かせて、もと来た道を戻っていった。

 

涼子は山菜そば、健次郎はカツ丼の食券を買って、厨房のカウンターのおばさんに渡した。二人は窓側のテーブル席に腰を下ろした。

「ここのそば、おいしいんですよ」
 
健次郎は言った。

「水がおいしいのよね、きっと」
 
涼子は楽しそうだ。続けて言った。

「旅行みたいね」

「そうですよ。旅行です」
 
涼子は、窓から見える高原のような景色を見た。健次郎は切り出した。

「完璧な自由はないって、うまいこといいますね。それを聞いたとき、目からうろこでしたよ」

「そう?」

「僕も、バイクに乗って、バンドやって自由気ままにやってますけど、自由にならないこと山ほどありますよ」

「なに、バンドやってるの?」

「そう、来週ライブあるんですよ。来てください」

「行きたいなあ」

「迎えに行きます」

山菜そばとカツ丼がきた。涼子は笑顔だった。それを健次郎はうれしく思った。涼子は割り箸を二膳取り、一つを健次郎に渡した。二人は、いただきます、と声を合わせ、食べ始めた。
 健次郎は考えていた。死が完璧な自由とは、どうしても思えなかった。死んでしまったら、自由を感じることもできない。言葉に言い表したかったが、涼子があのようにきっぱり言い切ったので、反論できなかった。





武田宗徳(たけだ・むねのり)



1974年静岡県生まれ。96年よりモーターサイクル(カワサキ・エストレア)に乗りはじめる。2000年頃よりバイク小説を書きはじめ、02年からは自らの小説による手作りのフリーペーパー、『Rider's Story』の編集・発行、静岡県を中心に配布している。GOGGLEやOutRiderなど雑誌への掲載実績も複数、ON THE ROAD MAGAZINE本誌では06年より小説『Rider's Story』を連載。08年、静岡学術出版より新書『バイク小説短編集"Rider's Story"~僕は、オートバイを選んだ~』を出版。09年、13年以上乗り続けた愛車エストレアが不動となり、09年モデルの同じエストレアを新しい相棒とする。プライベートは夫であり二人の男の子の父。現在静岡県藤枝市を拠点に活動中。



ホームページ:http://www.geocities.jp/mjy_t

ブログ『Rider's Life』:http://www.orm-web.co.jp/blog/riders_life

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