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MOTORCYCLERider's Story on ORM-web 第15回

2010.05.21

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Rider's Story 長篇連載の15回目


前回までのあらすじ...
土屋健次郎は海沿いのカフェ「Sea & Sky」に通うようになっていた。何か影のある店主の女性、林涼子に次第に惹かれていった。ある晩、久しぶりに自分の父親の晩酌に付き合った。「自分を信じればいい」と言った父の言葉を深く受け止めた。

『自由へ至る 』第15話 FM局

文と写真:武田宗徳

「すいませーん」
 
客の大声で、ハッとして目を覚ました。今日も深夜のコンビニのバイトだった。バックヤードで仮眠をとっていた健次郎はあわててレジへ向かった。

「やっほー」
 
日菜子だった。

「なんだ…。日菜子か」

「なんだとは、何よ!」
 
日菜子がいつものふくれ面をした。

「ねえ、なんか聞いてる?」

「何を」

「タカオ君から」
 
健次郎は、タカオとの会話を思い出した。

「何も」

「そう」

「タカオ、バンドやめるって」

「え……これからだったのに」

「なんだよ、意味深な」

「ニュースよ。バンドに関してビッグニュース」

「なに」

「文恵から聞いたんだけど」
「ああ、あいつバンドの追っかけをかけもちしているから、情報入ってくるんだよな」

「今度の単独ライブ、FM局の人が来るみたいよ」

「え!」

「アマチュアバンドの番組あるじゃない」

「うん」

「あれに出られるかもよ!」

「まじで!?」

「タカオ君にも、言わなきゃ」

「そうだな」

「そうしたら、考え直すかも」

「いや。タカオはそれでも、やめるだろうな」

「なんで?」

「おまえ、わからないのか」

「……」

「まあ、いいや」
 
健次郎は、肉まんを二つ取り出した。

「一つ、やるよ」

「賞味期限切れ?」

「いや」

「いいの?」

「いいよ」
 
二人は店内で肉まんを食べ始めた。夜中の二時を過ぎようとしていた。

「健次郎さ、本当にタカオ君から聞いてない?」

「……タカオさ、俺たちができてるんじゃないかって」

「え……」

「勘違いもいいとこだよなあ。俺たちは仲がいいかもしれないけど、それだけだもんな」

「……健次郎、好きな人いるの?」

「なんだよ、いきなり」

「……いる?」

「さあね」

「何よ」
 
日菜子は、少しうつむいた後、雑誌コーナーへ向かった。ファッション誌の占いのページを見た。日菜子はおひつじ座だった。おひつじ座の恋愛運はよくなかった。あせらずじっくり、とある。ラッキーフードはメロンパンだった。日菜子はメロンパンをレジにいる健次郎に持っていった。

「ください」

「夜食か」

「そんなとこ」
 
日菜子は代金を払った。健次郎はレジ袋にメロンパンを入れた。そして、日菜子に言った。

「この肉まんの紙、外のゴミ箱に捨ててきてくれよ。前もレジの上に置きっぱなしで……」

「あ、そう。悪かったね」
 
日菜子は乱暴にその紙を二つ取って、

「帰る」

と言って出入り口へ向かった。

「わざわざ、ありがとな」
 
健次郎はそう言ったが、もうすでに自動ドアは閉まっていて、日菜子に耳に届いてなかったようだ。健次郎はバックヤードへ戻って、もうひと眠りしようと思った。






武田宗徳(たけだ・むねのり)



1974年静岡県生まれ。96年よりモーターサイクル(カワサキ・エストレア)に乗りはじめる。2000年頃よりバイク小説を書きはじめ、02年からは自らの小説による手作りのフリーペーパー、『Rider's Story』の編集・発行、静岡県を中心に配布している。GOGGLEやOutRiderなど雑誌への掲載実績も複数、ON THE ROAD MAGAZINE本誌では06年より小説『Rider's Story』を連載。08年、静岡学術出版より新書『バイク小説短編集"Rider's Story"~僕は、オートバイを選んだ~』を出版。09年、13年以上乗り続けた愛車エストレアが不動となり、09年モデルの同じエストレアを新しい相棒とする。プライベートは夫であり二人の男の子の父。現在静岡県藤枝市を拠点に活動中。



ホームページ:http://www.geocities.jp/mjy_t

ブログ『Rider's Life』:http://www.orm-web.co.jp/blog/riders_life

 
 
 

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