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MOTORCYCLERider's Story on ORM-web 第17回

2010.05.28

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Rider's Story 長篇連載の17回目


前回までのあらすじ...

土屋健次郎は海沿いのカフェ「Sea & Sky」に通うようになっていた。店主の女性、林涼子に次第に惹かれていった。自分のライブに誘うため、涼子を迎えに店に行くが、そこに彼女の夫がいた。彼は大暴れし、ふとした拍子に彼女と二人で崖下へ転落してしまった。

『自由へ至る 』第17話  ライブ

文:武田宗徳 写真:THE SCRAP CREATOR

波は穏やかだった。夕暮れが迫っている。海は低い日差しに照らされて、光っている。
 
健次郎はしばらく動けなかった。割れた窓から、冷たい冬の海風が勢いよく吹き込んでいた。
 
やっとの思いで起き上がって、体に降りかかったガラス片を払った。
 
健次郎は腕時計を見た。時間に猶予はあまりなかった。
 
健次郎は、涼子のセリフを思い出していた。

(完璧な自由はないのよ。死ぬ以外に)

 

健次郎は携帯電話を手に取った。




 



ライブ会場の客入りはまあまあだった。身内がほとんどだが、中には見たことのない客もいる。口コミで、少しずつだが着実に客が増えていることを、健次郎は実感していた。
 
健次郎は歌っている声に力を込めた。客の反応もいい。健次郎は大きな声をだして叫ぶように歌う度に、頭の中が少しずつ整理されていくのを感じていた。
 
健次郎は力を振り絞って、最高の演奏をするよう努めた。何も考えず、ただ無心で歌おうとした。
 
しかし、あの光景がどうしても頭に浮かんでくる。断崖絶壁を落ちていった涼子と夫。彼の服をつかんだまま落ちていった涼子の微笑が忘れられない。涼子と彼女の夫は紛れもなく夫婦だということに気づかされた。
健次郎は長い夢から覚めたような気がしていた。我に返ったというか、目が覚めたというか、本来の自分に戻ったような気がした。
 
今、健次郎は日菜子と話をしたくなっていた。二人きりでビールでも飲みながらいろいろな話をしたかった。日菜子となら、他愛のない馬鹿話から自分の真剣な悩みまで、なんでも話せる気がした。
 
本当に必要なもの。本当に大切なもの。それは普段の自然な自分でいられる相手であることに、健次郎は今、気づいた。そんな相手は健次郎の周りにただ一人しかいなかった。





武田宗徳(たけだ・むねのり)



1974年静岡県生まれ。96年よりモーターサイクル(カワサキ・エストレア)に乗りはじめる。2000年頃よりバイク小説を書きはじめ、02年からは自らの小説による手作りのフリーペーパー、『Rider's Story』の編集・発行、静岡県を中心に配布している。GOGGLEやOutRiderなど雑誌への掲載実績も複数、ON THE ROAD MAGAZINE本誌では06年より小説『Rider's Story』を連載。08年、静岡学術出版より新書『バイク小説短編集"Rider's Story"~僕は、オートバイを選んだ~』を出版。09年、13年以上乗り続けた愛車エストレアが不動となり、09年モデルの同じエストレアを新しい相棒とする。プライベートは夫であり二人の男の子の父。現在静岡県藤枝市を拠点に活動中。



ホームページ:http://www.geocities.jp/mjy_t

ブログ『Rider's Life』:http://www.orm-web.co.jp/blog/riders_life

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