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MOTORCYCLERider's Story on ORM-web 第19回

2010.06.06

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Rider's Story 長篇連載の19回目


前回までのあらすじ...
土屋健次郎は海沿いのカフェの店主、林涼子に次第に惹かれていった。彼女の夫と店で会い、彼は大暴れし、ふとした拍子に彼女と二人で崖下へ転落してしまう。彼女と夫は夫婦だという当たり前のことに気づかされ、健次郎は本当に大切なものは何かようやく気づいた。

『自由へ至る 』第19話 市立総合病院

文:武田宗徳

一ヵ月後、健次郎は市立総合病院にいた。六人部屋の窓側に、涼子が横になってラジオを聴いていた。健次郎は持ってきた花を涼子の枕元に置いた。

「良かったですね。奇跡ですよ」
 
健次郎は、そっと話しかけた。

「生き延びちゃった。……あの時死んでいれば、自由になれたのに……」

「やめてください」

「冗談よ」

「死んだって、自由になれませんよ。むしろ不自由だと思います」

「……そうかもね」

「旦那さんは?」

「いるわよ。男部屋のほうに」

「二人して、運がいいですね」

「歩けなくなったみたい」

「え……旦那さん?」

「うん。二度と歩けないみたい。私は、大丈夫なんだけどね」

「そうですか」

「私が、面倒みるの。介護っていうの?」
「……」

「ますます、自由がきかなくなっちゃった」

「……」

「でも、主人の面倒をみたいって思ったの」

「……」

「こんな風に思ったのは、初めてよ」

「そうですか」

「わくわくしてるのよ。これからは、二人でささやかに楽しみながら暮らしていくんだ」

「いいことです」

「こんな気持ち、結婚して以来初めてかもしれない」

「どんな気持ちなんですか」

「なんて言えばいいかな。晴れやかな気持ちっていうのかな」
 
涼子は少し強がっているように見えた。それでも、以前の表情とはまったく違っていた。涼子の明るい笑顔は、とても魅力的だった。自由になれたんですね、と健次郎は言おうとして、やめた。

「お大事に」

「また来てね」
 
健次郎は背を向けたとき、涼子の枕元にあるラジオから馴染みのある音楽が流れてきた。何度も何度も繰り返し演奏した、健次郎の曲だった。

「この曲……!」
 
健次郎が言いかけて、涼子が言った。

「さわやかな曲ね。今の気分にぴったり」
 
健次郎はこの曲は自分のバンドの曲なのだと言おうとしたが、やめておいた。涼子のその言葉を聞いただけで、十分だった。健次郎は背を向け、手を肩の高さで振って部屋を出た。そのまま、階段に向かった。





武田宗徳(たけだ・むねのり)



1974年静岡県生まれ。96年よりモーターサイクル(カワサキ・エストレア)に乗りはじめる。2000年頃よりバイク小説を書きはじめ、02年からは自らの小説による手作りのフリーペーパー、『Rider's Story』の編集・発行、静岡県を中心に配布している。GOGGLEやOutRiderなど雑誌への掲載実績も複数、ON THE ROAD MAGAZINE本誌では06年より小説『Rider's Story』を連載。08年、静岡学術出版より新書『バイク小説短編集"Rider's Story"~僕は、オートバイを選んだ~』を出版。09年、13年以上乗り続けた愛車エストレアが不動となり、09年モデルの同じエストレアを新しい相棒とする。プライベートは夫であり二人の男の子の父。現在静岡県藤枝市を拠点に活動中。



ホームページ:http://www.geocities.jp/mjy_t

ブログ『Rider's Life』:http://www.orm-web.co.jp/blog/riders_life

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