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MOTORCYCLERider's Story on ORM-web 最終話

2010.06.12

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Rider's Story 長篇連載の最終話


前回までのあらすじ...
土屋健次郎は海沿いのカフェの店主、林涼子の夫と店でばったり会った。彼は大暴れし、ふとした拍子に彼女と二人で崖下へ転落してしまう。涼子と夫は奇跡的に助かったが、彼女は歩けなくなった夫の介護が必要だった。しかし、涼子は晴れやかな気持ちになっていた。

『自由へ至る 』第20話 メロンパン

文:武田宗徳

病院の玄関に日菜子が待っていた。

「どうだった?」

「わりと元気だった」
 
健次郎と日菜子は肩を並べて通りの歩道を歩き始めた。日差しが春を感じさせるほど、やわらかであたたかい。街路樹の木漏れ日が、日菜子の顔に模様を作っている。日菜子を見ていると、健次郎はついさっきまで話していた涼子との色々な出来事が、まるで夢の中の話のような気がしてくる。
 
日菜子は健次郎に涼子のことについて詳しく聞いてこない。あえて聞かないようにしているかもしれない。健次郎は、日菜子に言った。

「なあ、気にならないのか。別に聞いてもいいんだぞ」

「怒らない?」

「なにをびくびくしているんだよ」

「だって嫌われたくないから」

「そんなことで、嫌いにならないよ」

「……」

「今までの日菜子と違うな。付き合い始めて、なんか女の子みたいになったぞ」

「失礼だな! あたし、女の子だもん!」

「お! いつもの調子が出てきたな」

「うるさい!」
 
日菜子が健次郎の背中を手のひらで叩く。健次郎は逃げるように走り出した。日菜子も後に続いて追いかける。
 
健次郎のオートバイがとめてある場所に到着した。健次郎はヘルメットの一つを日菜子に渡し、もう一つを自分でかぶった。オートバイにまたがり、腰を上げて勢いよくキックを踏みおろした。ブルン、とエンジンは一発でかかった。歯切れの良い単気筒のパンパンという排気音が閑静な住宅街に響く。日菜子もタンデムシートに跨った。

「ねえ!」
 
日菜子が後ろから健次郎を呼んだ。

「なんだあ」
 
健次郎はオートバイの排気音に負けないよう声を張り上げた。

「角のパン屋まで」

「いいけど。なんか買うのか?」

「メロンパン」

「好きだな」

「いいじゃん」
 
オートバイはゆっくりと走り出した。頬に当たる風が以前より柔らかく感じる。
もうすぐだ。
もうすぐ、春が来る。







武田宗徳(たけだ・むねのり)



1974年静岡県生まれ。96年よりモーターサイクル(カワサキ・エストレア)に乗りはじめる。2000年頃よりバイク小説を書きはじめ、02年からは自らの小説による手作りのフリーペーパー、『Rider's Story』の編集・発行、静岡県を中心に配布している。GOGGLEやOutRiderなど雑誌への掲載実績も複数、ON THE ROAD MAGAZINE本誌では06年より小説『Rider's Story』を連載。08年、静岡学術出版より新書『バイク小説短編集"Rider's Story"~僕は、オートバイを選んだ~』を出版。09年、13年以上乗り続けた愛車エストレアが不動となり、09年モデルの同じエストレアを新しい相棒とする。プライベートは夫であり二人の男の子の父。現在静岡県藤枝市を拠点に活動中。



ホームページ:http://www.geocities.jp/mjy_t

ブログ『Rider's Life』:http://www.orm-web.co.jp/blog/riders_life

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