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MOTORCYCLERider's Story on ORM-web 第8回

2010.04.17

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Rider's Story 長篇連載の8回目


前回までのあらすじ...

土屋健次郎はバンドで食べていくことを夢見ていた。バンドのファンの一人で、親しくなった女友達、日菜子が自分に気があることを知った。バンドのドラムのタカオが日菜子のことを好きなことも同時に知ることになった。健次郎は自分の気持ちを考え始めた。

『自由へ至る』第8話 イージーライダー

文と写真:武田宗徳



断崖絶壁に勢いよくあたって豪快なしぶきをあげている波を、健次郎は窓から見ていた。
「お待たせしました」
林涼子がホットコーヒーを二つ持ってきて、その一つを健次郎の座っている丸い小さなテーブルに置いた。そして、もう一つを隣の席に置いて、それが自然だというふうに座った。彼女独特の清潔感のある甘い香りがした。健次郎は日菜子の忠告を思い出して、ますます身体が硬くなった。

「あの……」
「なあに?」
涼子がこちらをまっすぐ見た。
「…変な噂を聞きまして」
健次郎は思い切って聞いた。
「ああ」
たいして驚く風でもなく涼子は答えた。
「年の離れた夫婦によく付きまとう噂よ。気にしないで。……まあ、信じてもいいけど」

健次郎はどきっとした。
酸味よりも苦味のきついここのコーヒーを健次郎は飲んだ。外は風があるようで、波も高い。
「今更だけど、やっと見たよ」
林涼子は、唐突に口を開いた。
「何を、ですか」
「イージー・ライダー」
「ああ」
「あなたの持っていたポストカードを見て思い出したのよ。そういえば、前から見たかったなって」
「見たかったんですか。なんか意外な感じですね」
「そう?」

涼子は大きな窓ガラス越しに曇っている空を見上げて言った。
「切なかったな」
「そうですね」
「でも、バイクっていいわね。一度でいいから乗ってみたい」
「いいですよ。バイク」
「あなたが岸壁をバイクで走っているのを、ここから見ていて思ったの。羽が生えているみたいだなって」
「どういうことですか」
「どこへでも行ける、みたいな雰囲気があったの」
「そのとおりですよ」
「まさに自由の象徴ね」
「そう言ってもらえると、バイク乗りとしてはうれしいですね」

健次郎は、後ろに乗りますか、と言おうとした。しかしそう言えるほどの間柄ではないような気がして、やめた。そして、ふと思った。以前にも涼子は自由がどうとか言っていた。健次郎は涼子に聞いた。

「涼子さんは自由にこだわりますね」
涼子は健次郎を一瞥し、視線を太平洋へやった。
「私、自由とは無縁なんだ。この喫茶店から出ることもないし、大体、免許がないの。車がないと町へも降りられないし、自転車で峠道なんて無理でしょ。だから、私この浜の集落の外へは出たことが無いの。それで、自由になりたいって」
「旦那さんに連れて行ってもらえばいいじゃないですか」
健次郎は日菜子から聞いた、旦那さんはおじいちゃん、という言葉を意識しながら言った。
「主人は、そういうことをしない人なの」

投げやりな言い方だった。
しかし、そのセリフの中に、何か切実な雰囲気が感じられた。軽いセリフではない、と健次郎は思った。健次郎が戸惑っていると、涼子は自分の空いたカップを持って奥へと行ってしまった。




武田宗徳(たけだ・むねのり)

1974年静岡県生まれ。96年よりモーターサイクル(カワサキ・エストレア)に乗りはじめる。2000年頃よりバイク小説を書きはじめ、02年からは自らの小説による手作りのフリーペーパー、『Rider's Story』の編集・発行、静岡県を中心に配布している。GOGGLEやOutRiderなど雑誌への掲載実績も複数、ON THE ROAD MAGAZINE本誌では06年より小説『Rider's Story』を連載。08年、静岡学術出版より新書『バイク小説短編集"Rider's Story"~僕は、オートバイを選んだ~』を出版。09年、13年以上乗り続けた愛車エストレアが不動となり、09年モデルの同じエストレアを新しい相棒とする。プライベートは夫であり二人の男の子の父。現在静岡県藤枝市を拠点に活動中。

ホームページ:http://www.geocities.jp/mjy_t
ブログ『Rider's Life』:http://www.orm-web.co.jp/blog/riders_life

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